事業等のリスク

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、ヤマトグループの経営成績等に重要な影響を与えると認識している主要なリスクについて、経営への影響と顕在化する可能性の観点から重要なものを、事業環境及びそれに対応した戦略に係るリスクと、事業運営に係るリスクに分類して、以下のように取り纏めております。

なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在においてヤマトグループが判断したものであります。

(1)事業環境及びそれに対応した戦略に係るリスク

①市場・競争環境の変化によるリスク

国際情勢の不安定化に伴うエネルギー価格の高止まりや原材料価格の高騰などの世界的なインフレに対し、米欧主要中央銀行の継続的な金融引き締めなどにより、世界経済の減速傾向が強まっています。また、EC化の進展に伴い、物流事業者との競争の激化のみならず、自社物流化を進めるECプラットフォーマーとの戦略的な関係性がより重要となることに加え、デジタルで商慣習を変える可能性があるスタートアップ企業を意識する必要があるなど、ヤマトグループを取り巻く競争環境も変化しています。かかる中、変化、多様化する生活者のニーズや、既存の流通構造を再構築する法人顧客の物流ニーズに対応できない場合、営業収益の減少や成長機会の逸失によりヤマトグループの経営成績等に影響を与える可能性があります。また、持続可能な社会の発展に向けた企業活動に取り組まない場合、お客様の支持が低下することや地域社会との関係が悪化すること、優秀な人材確保が困難になること、資金調達コストが上昇することなどにより、中長期的に、ヤマトグループの経営成績等に影響を与える可能性があります。

このようなリスクを踏まえ、ヤマトグループは、お客様や社会の多様化するニーズに対し、サプライチェーンの「End to End」に対する提供価値の拡大による持続的な成長の実現に取り組んでいます。法人ビジネス領域の拡大においては、拡大するEC需要や法人のお客様のサプライチェーンの変化に対応し、在庫の適正化と納品・配送のリードタイム短縮を両立させて物流コストの最適化を支援するなど、お客様のサプライチェーン全体に対する価値提供に取り組んでいます。また、ネットワーク・オペレーションの構造改革においては、拡大するEC需要に対し、都市部を中心としたEC物流ネットワークの構築を進めるとともに、小規模・多店舗展開してきた宅急便営業所の集約・大型化やターミナル機能の再定義、ITシステムを活用した作業オペレーションの効率化を推進するなど、物流ネットワーク全体の生産性向上およびオペレーティングコストの適正化に取り組んでいます。そして、これらの事業構造改革を支えるデジタル戦略、人事戦略、環境戦略を推進するとともに、持続的な企業価値向上への取組みの基盤となるサステナブル経営の強化およびコーポレート・ガバナンスの強化に努めています。

②労働人口の減少によるリスク

ヤマトグループの展開する事業は労働集約型の事業が多く、労働力としての質の高い人材の確保、適正な要員配置が必要不可欠です。国内の労働人口の減少により労働需給がさらに逼迫し、輸配送パートナーを含め人材を十分に確保できない場合や、人材獲得競争の激化によりコストが大幅に増加した場合、ヤマトグループの経営成績等に影響を与える可能性があります。

このようなリスクを踏まえ、ヤマトグループは、人材の獲得・定着に資する魅力ある人事・評価制度により、社員が働きがいを持ちイキイキと活躍する環境を構築していくとともに、知識やノウハウを有する定年到達者の再雇用を推進しています。また、人権や多様性が尊重され、より安心して働くことができる職場環境の整備や、安全面や品質面も含めた輸配送パートナーとの連携強化に取り組んでいます。さらに、データ分析に基づく経営資源の最適配置や、幹線を含む輸送工程の最適化と標準化、拠点の集約・大型化による拠点間輸送の削減、作業のオペレーション改革や自動化・デジタル化を通じたネットワーク全体の生産性向上に取り組むとともに、管理・間接業務を標準化、電子化、集約化する業務プロセス改革(BPR)を推進しています。

③テクノロジーの進化に係るリスク

ヤマトグループが事業を展開する物流業界において、AI・IoT・ビッグデータ等の活用によるリソースの最適化や、ロボティクスの活用による倉庫業務の自動化、ドローン・自動運転の活用による幹線輸送やラストワンマイルの変革等、テクノロジーの進化に伴う様々な変化が生じています。短中期的に見込まれる新たなビジネスモデルの出現に対してヤマトグループが適切に対応できない場合や、技術トレンドの誤った理解および先端テクノロジーの導入手法に不備が発生した場合、期待通りの投資効果を得られず、ヤマトグループの経営成績等に影響を与える可能性があります。

このようなリスクを踏まえ、ヤマトグループは、社内外のデジタル専門人材を結集して先端テクノロジーの導入を進めるとともに、デジタル分野への直接投資やCVCファンドを通じて、ヤマトグループの脅威となりうるテクノロジーや事業モデルの早期察知、およびオープンイノベーションによる新たな成長モデルの創出に取り組んでいます。

④情報セキュリティに係るリスク

ヤマトグループは、営業上の機密情報に加え、物流業務や情報処理の受託等を通じて多くの個人情報・顧客情報を保有しています。サイバー攻撃や管理の不徹底等により情報が外部に漏洩した場合やデータ喪失が発生した場合、社会的信用の低下や損害賠償請求の発生、さらには推進しているデジタル戦略に疑念が生じることなどにより、ヤマトグループの経営成績等に影響を与える可能性があります。また、サイバー攻撃等によりシステムがダウンし、全国で宅急便の荷受けを停止した場合、収益機会の逸失等によりヤマトグループの経営成績等に影響を与える可能性があります。

このようなリスクを踏まえ、ヤマトグループは、サイバー攻撃の高度化・巧妙化を想定した上で、組織的・人的な対策と多層防御による技術的対策に取り組んでおります。セキュリティ対策としては、ネットワークへの不正アクセスや施設への不正侵入に対する監視を24時間365日実施しています。また、広域災害によるシステム停止への対策として、重要なシステムのデータセンターを分散し、相互にバックアップする運用を行っています。加えて、システム故障への対策として、ハードウェアの経年劣化や製品の潜在的なバグに対応するため、メーカーとの保守契約を結び、常に不具合情報の連携を図っています。

⑤地域の過疎化によるリスク

ヤマトグループの主な市場である日本国内は、総人口が減少するとともに、地域生活、地域経済において様々な課題が発生しています。過疎化や高齢化が進む地域では、配送効率の低下や集配を担う人材不足が顕在化しており、今後、地域経済が縮小することにより地域社会インフラの衰退などの問題が深刻化する場合や、そのような地域における収益性が低下することで、中長期的な観点で全国をきめ細かくカバーする物流ネットワークの維持が困難になる場合、ヤマトグループの経営成績等に影響を与える可能性があります。

このようなリスクを踏まえ、ヤマトグループは、物流ネットワーク全体の生産性を向上させるため、都市部を中心とした拠点の集約・大型化、職務定義の細分化・専門化による社員の働き方の刷新および、それに連動した人材の適正配置など、既存ネットワークの強靭化に取り組んでいます。そして、地域統括が主体となり、自治体を含めた地域のステークホルダーと連携の上、地域のインフラとしてのサプライチェーンを再構築し、地域社会の持続可能性に貢献する取組みを推進していきます。

⑥気候変動に係るリスク

ヤマトグループは、事業を行うにあたり多数の車両を使用しております。気候変動をはじめとした地球規模の環境問題がさらに深刻化し、温室効果ガス(GHG)の排出規制や削減義務の強化、炭素税の引き上げ等がされる場合、低炭素車両の導入や設備改修などの費用が増加し、ヤマトグループの経営成績等に影響を与える可能性があります。また、生活者の環境に配慮した消費意識や、顧客企業のサプライチェーン全体での温室効果ガス(GHG)排出量削減に向けた要請が高まる中、期待される低炭素輸送に対応できない場合、お客様の支持が低下することなどにより営業収益が減少し、ヤマトグループの経営成績等に影響を与える可能性があります。加えて、低炭素社会への移行が進まない場合、長期的な影響として、自然災害の激甚化や頻度上昇による社員や施設の被災、道路寸断、電力・燃料供給停止などにより頻繁に事業活動が停止し、ヤマトグループの経営成績等に影響を与える可能性があります。

このようなリスクを踏まえ、ヤマトグループは、長期目標である「2050年までの温室効果ガス(GHG)排出実質ゼロ(自社排出)」の実現に向け、中期目標として「2030年温室効果ガス(GHG)排出量48%削減(2021年3月期比)」を設定し、「EV20,000台」「太陽光発電設備810基の導入」「再生可能エネルギー由来電力の使用率向上」などの施策を推進しています。また、自然災害による様々な緊急事態を想定し危機管理体制の強化を図るなど、グループ全体でレジリエンスの向上に取り組んでいます。具体的には、BCPに基づく訓練や施設の水害リスク評価、拠点の再配置、発災後の対応や予期せぬ災害に備えた集配停止・保全作業等に係るマニュアルの継続的な見直しなどを進めています。

⑦M&A及び資本業務提携に係るリスク

ヤマトグループは、持続的成長に向けて、クロスボーダー物流の拡大に対応するため、海外物流事業者等との資本業務提携等を実施してきました。しかしながら、事業環境や競争状況の変化により期待する成果が得られない場合や、予期せぬ事業上の問題が発生する場合、経営成績等に影響を与える可能性があります。

このようなリスクを踏まえ、ヤマトグループは、出資案件について、フィージビリティスタディの結果等を踏まえ目指すべきビジネスモデルを十分に検討した上で判断するとともに、出資後は、事業性判定ルールに照らし合わせ、 定期的なモニタリングを継続実施しています。

(2)事業運営に係るリスク

①コンプライアンスに係るリスク

ヤマトグループは、コンプライアンスを最優先とした経営を推進しています。しかしながら、商品・サービスや労働・安全、サプライチェーン全体におけるコンプライアンス上のリスクを完全には回避できない可能性があり、各種法令に抵触する事態が発生した場合、ヤマトグループの社会的信用やブランドイメージの低下、発生した事象に対する追加的な費用の発生等により、ヤマトグループの経営成績等に影響を与える可能性があります。

このようなリスクを踏まえ、ヤマトグループは、グループ経営の健全性を高めるため、商品管理規程に基づく商品管理プロセスの適切な運用や、社員への理念教育の実施、社内通報制度及び協力会社・パートナーに対するアンケートを通じた不適正事案の早期発見と適切な対応など、グループガバナンスの強化に取り組んでいます。

②大規模自然災害に係るリスク

ヤマトグループは、車両による荷物の輸送が主要な業務であり、社員の安全と健康、車両や施設の保全と燃料、電気の安定供給等を前提に事業を運営しております。予期せぬ大規模自然災害が発生した場合、社員の被災等による人材の不足、車両・情報機器・施設等の損壊・水没、停電・断水や燃料・備品の供給不足等による事業停止、および車両、施設等の修理・買替費用等の発生、ならびに顧客の被災による出荷量の減少が発災直後から中長期に渡り生じることなどにより、ヤマトグループの経営成績等に影響を与える可能性があります。

このようなリスクを踏まえ、ヤマトグループは、社会的インフラを担う企業グループとして、不測の事態においても安定したサービス提供が継続できるよう、事業継続計画(BCP)を策定しています。また、2011年に発生した東日本大震災等の経験を踏まえ、様々な緊急事態を想定し、グループ全体で危機管理体制の強化を図っています。そして、BCP訓練や施設の水害リスク評価、拠点の再配置等を行うとともに、発災後の対応や予期せぬ災害に備えた集配停止・保全作業等に係るマニュアルの継続的な見直しなどに取り組んでいます。緊急事態の発生時には、「人命を最優先する」「グループ各社の事業の早期復旧を目指す」「社会的インフラとして地域社会からの期待に応える」を柱とするBCP基本方針のもと、基準にもとづき当社内に対策本部を立ち上げ、グループ各社と連携して対応するとともに、被災した地域や顧客の課題に対する価値提供に取り組んでまいります。

③重大交通事故・労働災害に係るリスク

ヤマトグループは、公道を使用して車両により営業活動を行っており、重大交通事故を発生させてしまった場合は、社会的信用が低下するとともに、行政処分による車両の使用停止や、「違反点数制度」による事業所の営業停止、事業許可の取り消し等が行われ、事業の中断や中止の可能性があります。また、社員等の労働安全を損なう重大な労働災害を発生させてしまった場合も、ヤマトグループの経営成績等に影響を与える可能性があります。

このようなリスクを踏まえ、ヤマトグループは、人命の尊重を最優先に、運輸安全マネジメントの推進や安全確保のためのルールの策定・遵守と設備・システムの整備、社員への安全教育および安全意識の浸透、監査部による運行・整備管理の法令遵守状況の定期的な確認、労働安全の確保などに取り組んでいます。

④労務関連法制に係るリスク

ヤマトグループの展開する事業は労働集約型の事業が多く、労働力としての質の高い人材の確保、適正な要員配置が必要不可欠です。労働や社会保険等に係る法令や制度等が改正された場合、対応するための費用の大幅な増加などにより、ヤマトグループの経営成績等に影響を与える可能性があります。また、2024年4月から自動車運転業務に時間外労働の上限規制が適用開始されることに伴い、運送業界における長距離輸送のキャパシティが減少し、輸送パートナーへの委託コストが上昇することなどにより、ヤマトグループの経営成績等に影響を与える可能性があります。

このようなリスクを踏まえ、ヤマトグループは、法制度に適切に対応した労働環境や人事制度の整備を推進するとともに、輸配送パートナーとの関係強化、デジタルトランスフォーメーションの推進などによる生産性の向上に取り組んでいます。また、長距離輸送の効率化に資するスーパーフルトレーラSF25をはじめとしたトレーラの活用拡大、モーダルシフトの推進、データ分析に基づく輸送の効率化などを推進するとともに、持続的な物流ネットワークの構築に向けて、これまで長距離輸送を担ってきたトラック、鉄道、フェリー、旅客機床下貨物スペースに加え、2024年4月から新たな輸送手段として貨物専用機(フレイター)の運航を開始します。

⑤国際情勢等の影響によるリスク

ヤマトグループが営業活動を行っている地域や、主要な取引先が営業活動を行っている地域がテロ・戦争等の国際紛争や貿易摩擦の影響を被った場合、サプライチェーンの寸断等による物流の停滞や社員の避難等により、ヤマトグループの経営成績等に影響を与える可能性があります。また、ヤマトグループは、車両による荷物の輸送を主要な事業としており、軽油等燃料が常時安定的かつ適正に供給されることは事業を行う上で不可欠であります。国際情勢等の影響により供給に制約が発生した場合や、燃料価格が高騰した場合、ヤマトグループの経営成績等に影響を与える可能性があります。

このようなリスクを踏まえ、ヤマトグループは、海外も含めて「Oneヤマト」で法人顧客に向き合うアカウントマネジメント体制を整備し、グローバルに拡がる顧客のサプライチェーンに対して、陸海空の多様な輸送手段を組み合わせて提供価値の拡大に向けた取組みを推進しています。また、データ分析に基づく輸配送の効率化、モーダルシフト、より燃費効率の良い車両の導入、台車集配の推進等、使用燃料を抑制する施策を推進するとともに、燃料価格等の高騰を踏まえた、顧客へのプライシングの適正化に取り組んでいます。

⑥感染症に係るリスク

ヤマトグループの展開する事業は労働集約型の事業が多く、社員の安全と健康を前提に事業を運営しております。予期せぬ感染症の流行等が発生した場合、社員の罹患等による人材の不足や、衛生用品の供与等に係る費用の発生、さらには事業継続が困難になることなどによりヤマトグループの経営成績等に影響を与える可能性があります。

このようなリスクを踏まえ、ヤマトグループは、予期せぬ感染症の大規模な流行が発生した場合には、対策連絡室を構え、社内の感染状況や行政施策を踏まえた対策を立案・推進していきます。そして、お客様に安心して宅急便をご利用いただくため、社員の衛生管理に最大限留意するとともに、非対面での荷物のお届けへの対応や接客時の感染防止対策の実施、ホームページなどを活用した情報発信などに取り組み、お客様、社員の安全を最優先に、宅急便をはじめとする物流サービスの継続に努めていきます。

⑦金融市場の影響によるリスク

ヤマトグループは、事業継続および事業成長に対する投資計画に照らし、必要資金についてはグループ資金を活用するとともに、金融機関からの借入および社債発行により対応しております。今後の国内外の経済情勢により、金融市場が機能不全となった場合や、金融機関の貸出先選別により、資金調達が困難になる可能性や、金利上昇により支払利息が増大する可能性があります。

このようなリスクを踏まえ、キャッシュ創出状況、保有現預金や自己資本比率水準等の財務の健全性を維持・強化するとともに、資金調達先および時期の適度な分散を図ってまいります。