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第三者意見

(2016年8月)

慶應義塾大学総合政策学部教授 玉村 雅敏

慶應義塾大学総合政策学部教授

玉村 雅敏

本意見の位置づけと留意事項

この「第三者意見」は、「ヤマトグループCSR報告書2016」の記載内容および、2016年6月と8月に、筆者の判断のもとで実施した、岩手県・青森県における同社の「プロジェクトG」のサイト調査と社内外の関係者へのインタビュー調査に基づいて執筆しています。

「ヤマトグループCSR報告書2016」は2015年度(2015年4月〜2016年3月:活動報告は対象年度以前や以降を含む)を対象にしたもので、「ハイライト版(冊子)」と「フルレポート版(Web)」が発行されており、本意見は両者を対象としています。
また、本意見の執筆にあたり、同社のCSRに関する考え方の変遷やPDCAサイクルの確認を行うために、同社のWebサイトにて公開している、過去の「CSR報告書」等も参照しています(2000-2003年度は「環境報告書」、2004年度は「環境・社会報告書」、2005年度以降は「CSR報告書」)。

本意見は、ヤマトグループからは独立した立場で、「CSR報告書2016」等で示された、同社の「CSRに対する考え方:企業姿勢・重要事項の設定・実施内容・体制など」と「CSR報告書の記載内容:客観性・理解の容易さなど」について、筆者の専門性のもとで検討し、その「優れていること」と「今後に期待すること」についての意見を記載したものです。

1.CSRに対する考え方:企業姿勢・重要事項の設定・実施内容・体制など

<優れていること>

ヤマトグループのCSR報告書では、「ヤマトグループは、グループ企業理念に基づき、CSRをまっとうすることが経営そのもの」という考え方を示しています。

「グループ企業理念」を支える、同社の根幹となる考え方は、1931(昭和6)年に制定された、創業の精神である「社訓」に示されています。特に、その1つ目において「ヤマトは我なり」と示されているとおり、同社の社員は「自分自身=ヤマト」であり、そういった社員一人ひとりの力を結集した全員経営の精神を重視することを、同社のWebサイトにて解説しています。

社会との接点である個々の社員が「ヤマトは我なり」の姿勢で活動する同社は、一人ひとりの社員がCSRの担い手としての役割を担いうる経営方針を持ち合わせており、強みとなり得るものと思います。

実際に、同社は、個々の社員が、現場や顧客の声から実感・直面した社会課題(困りごと)に対して各種サービスを構築・定着させ、社会インフラを担う企業の「社会的責任」を果たしています。代表的な例としては、40年前に、いつ届くか分からない・集荷も出来ないという状況に対して構築した小口貨物の宅配システム「宅急便」をはじめ、通販ビジネスの拡大に不可欠であった決済機能を付加した「宅急便コレクト」、鮮度を保持したまま送れる「クール宅急便」、荷物を届ける時間を指定できる「時間帯サービス」など、社会の困りごとに挑むサービスを創出してきています。

そして、そういった同社の姿勢を加速させるものとして、地方自治体や地域団体などと連携して、社会課題の解決に挑戦する「プロジェクトG(Government)」にも注力しており、CSR報告書2016では、2016年6月までに1770件の案件が検討され、そのうち529件がサービスとして提供していることが説明されています。

このプロジェクトGは、ヤマトグループによるCSV(Creating Shared Value=共有価値の創造)として、自治体や地域団体などのステークホルダーと連携し、それぞれの強みを活かした協業型の社会システムを構築していくものです。

その案件やサービス数は、年々増加していること、また、現場経験や顧客の声を通じて、課題に対する実感をもつ同社の社員が本気度高く活動し、多様な主体と連携する協業型の仕組みを構築していること、ヤマトグループ各社が持つLT(物流技術)・IT(情報技術)・FT(決済技術)の機能をプラットフォームとして提供することで、自治体や地域団体等との協業を生み出していき、その結果、解きほぐしにくかった社会課題の解決へと前進するきっかけを提供していることなど、全国各地で社会インパクトを与えるものとなっています。

プロジェクトGでの実践としては、これまで、地方での取り組みが多く見られましたが、CSR報告書2016で示されているとおり、2016年4月から、都市部における事例として、ヤマトグループ・UR都市機構・多摩市による検討・協業を通じて「くらしのサポートサービス」が開始され、また、2015年度には、「国際クール宅急便」などのヤマトグループが海外展開を強化してきた基盤を活かして、青森県等の自治体と連携し、海外の飲食店と日本各地の生産者をつなぐ支援にも取り組み、ヤマトグループならではの新機軸(イノベーション)を創出しています。これまでに行われてきた高齢者の見守りや生活支援(買い物支援等)、貨客混載、災害復興支援、観光支援、地域活性化支援などに加えて、都市部でのくらし支援や国際的な展開支援など、多様な社会課題(困りごと)に対して、より踏み込んだ展開が行われています。

社会との接点となる、社員一人ひとりの力にこだわる同社のスタイルに加えて、社会インフラを担う企業として、多様な主体とともに協業で社会課題に挑む「プロジェクトG」を推進することで、CSR報告書2016の冒頭で示している「ヤマトグループは、創業100周年を迎える2019年に「アジアNo.1の流通・生活支援ソリューションプロバイダー」として「社会から一番愛され信頼される会社」となること」を実現できる体制整備が進んでいると思います。

<今後に期待すること>

同社は、長期経営計画「DAN-TOTSU経営計画2019」のもと、デリバリー事業の拡大、ノンデリバリー事業の成長、海外展開の強化などに取り組んでいます。その結果、期待される「社会的責任」は大きくなってきていますが、同社は、グループ企業理念のもとで、その影響やステークホルダーの期待等を検討・把握した上で、CSRにおいて取り組むべき重要事項を明確化していることは評価できるものです。

こういった前提のもと、毎年「CSRに関する改善テーマ」を確認し、持続的な改善を実践していくこと、また、海外展開にあわせたCSRのあり方を集中的に検討することなどが期待されます。

また、バリューチェーン全体で、「ヤマトは我なり」である社員一人ひとりがどのようにCSR/CSVに関わっていくのか、より明示的に確認出来るようにする仕組みを整えると、同社の強みがより増加することが想定されます。その実践は、おそらくすでに行われていることと思いますが、その実践していることや、今後の方針等についての発信を行うことで、より企業姿勢が明確になると思います。

プロジェクトGは、ヤマトグループの創業以来の理念を促進させるものであり、その加速化や定着化、そしてさらなる進化が重要となります。

プロジェクトGのあり方としては、以下の類型があり得ると思います。

プロジェクトG1.0:企業が持ち合わせている要素(プラットフォーム)を社会に提供可能にする
プロジェクトG2.0:求められる社会ニーズに応える仕組みを構築する
プロジェクトG3.0:多様な主体とともに協業モデルを構築し、共有価値を共創する

同社の実践では、CSR報告書の特集等で示されているとおり、現場での試行錯誤を通じて3.0のモデルが主流になっていると思います。その結果、社会における新機軸を実現でき、社会課題の解決へと前進する仕組みづくりが実現しています。

今後、この3.0レベルの実践が、全国各地でさらに促進され、熟度が上がっていくことが期待されます。ただし、プロジェクトGが取り組む社会課題の領域では、どのように課題に取り組めば良いかが、必ずしも事前には明確にはなっていないことや、実践を通じた試行錯誤から、本質的な課題が明らかになることがあり得ます。また、社会システムや制度的な設計や改革が求められることにも直面します。その際の進め方としては、課題に挑戦する現場でのヤマト社員の試行錯誤を行いやすくすることや、より協業型のスタイルを進化させ、具体的な制度等の課題についても、協働での設計・構築を推進する体制を整備することが期待されます。

プロジェクトGは、全国各地での実践が進み、相互での学習や影響し合うことをさらに促進させることが重要になってきています。また、構築したモデルを、他の地域に提供する際には、現場現場での試行錯誤が重要となります。そういったことを促進・支援するための体制についても期待されることです。

CSR報告書2016(冊子やWebサイト)では、特集等を通じて、特徴あるプロジェクトGの実践を解説しており、その役割や価値を示しています。一方で、全国で展開されている数多くの案件の全体像が捉えにくい状況にあります。全国で展開されるプロジェクトGの全体感も魅力があるものであり、新たな協業に繋がるきっかけとなることも想定されます。全国での協業の推進や支援の体制整備とあわせて、検討が必要である事項と思います。

ヤマトグループは、デリバリー事業、BIZロジ事業、ホームコンビニエンス事業、e-ビジネス事業、ファイナンシャル事業、オートワークス事業、その他の各種事業を推進しています。そういったグループ企業の総合力を活かしたプロジェクトGの展開について、すでにいくつかの実践はありますが、今後さらなる推進を行うことや、事業の連動性を高めることでの実効性を増加させていくこと、可能性のあるアプローチを多角的に検討することなども期待されます。

いずれにせよ、プロジェクトGをさらに推進・普及させるための課題や、その改善状況などについて、年度単位で明確化すること、ならびに、公表することが期待されます。

2.CSR報告書の記載内容:客観性・理解の容易さなど

<優れていること>

ヤマトグループのCSR報告書2016は、「ハイライト版(冊子)」と「フルレポート版(Web)」の組み合わせで提供されています。今回の工夫として、冊子を小型化した上で、詳細や網羅性のある解説はWebサイトにて示すことを前提に、特筆したい現在の動きや数値等の掲載を示すものを冊子としています。

CSR報告書の形式や提供・活用方法は、それぞれの企業の観点や戦略からの工夫が求められるものです。

冊子については、(これまでの形式のように)総合的かつ網羅的に示された印刷媒体が提供されることは魅力的ではありますが、宅急便などのヤマトグループの商品やサービスは、一般の方も利用するものであるため、配布しやすく、また手軽に閲覧していただけるように、工夫を行ったとのことです。ステークホルダーとのコミュニケーションを重視する観点からの工夫は重要であり、実際に活用する場面の設計や、その活用状況等を確認しながら、今後のスタイルを検討されることを期待します。

Webサイトでは、その特性を活かし、例えば、動画の活用を通じて、ヤマトグループのCSRに対する姿勢と取り組みを理解しやすくするなど、コミュニケーションしやすくする工夫を行うことや、過去の特集などへのリンクを用意し、より理解を促しやすくすることなどを行っています。また、その年の特集テーマのコンテンツを充実させていくことで、特に着目することの具体化なども行っています。

概して、CSR報告書では、レポート作成がメインになりやすいところを、冊子とWebサイトを組み合わせて、コンテンツの充実や説明可能性を高めることで、安定的にコミュニケーションをする体制を整えています。こういった基盤を活かした、ステークホルダーとのコミュニケーションのさらなる促進に期待します。

<今後に期待すること>

数値を用いた説明がされていることは評価できますが、さらに、経年の変化が捉えられるようにすることや、相対的なデータを提供すること、それらから目指す方向性や課題を示すことが期待されます。また、数値については、項目によって、数値記載の有無やレベル感のばらつきが見られます。例えば、「安全」の分野では、多くが、実現した成果(アウトカムやインパクト)が数値で明示され、同社に重要な観点として徹底していることが読み取れます。「環境」「社会」についても、可能な限り定量的に示されていますが、実施内容(アウトプット)の記載や、定性的な説明となっているものが見られます。成果の定義や定量化が困難な領域もありえますが、その場合は、社会において果たしていることを丁寧に補足することや、(定性的な記載であったとしても)年次での変化や差分が読み取れるようにすることで前進状況を示すことが求められます。

また、ESG(環境・ 社会・ガバナンス)投資やインパクト投資の潮流に適合するための情報開示や数値情報の発信などを、より訴求できるように行うことも期待されます。ただし、IRとCSRは、ねらいや目的が異なるものであるため、(完全に統合させるということではなく)どのような関係や方針とするかの検討が求められます。

同社のCSVであるプロジェクトGが提供するインパクトについては、個々の案件でKPI等を持っていることが想定されますが、公開可能な内容を設定の上、全体として、どういった現状であり、どのような挑戦が進んでいるのかなども示すことで、より実効性が高まることが期待されます。

Webサイトは、情報の改訂や発信を容易にすることができるものです。すでに、「CSRニュース」の欄にて、授賞や協定の締結、イベント出展等を適宜発信してますが、より戦略的に、CSRの推進状況や、各種イベント実施や協定締結などの後の状況についても発信することで、常に動いているヤマトグループのCSRが実感しやすいものとなりえます。

CSR報告書のあり方についても、毎年、持続的に改善をし続けるものであるため、どのような方針を掲げて改善を行っているのか、毎年の改善事項の明確化とその状況についても発信することを期待します。

ご意見をいただいて

ヤマトグループのCSR活動報告について、貴重なご意見ならびにご提言をいただき、誠にありがとうございます。

本報告書は、「安全・環境・社会」のそれぞれの分野の具体的な事例を数値とともに取り上げております。

また、創業100周年を迎える2019年に向け、ヤマトグループが「社会から一番愛され信頼される会社」を目指して実施している、「高齢者見守り」や「くらしのサポートサービス」などの取り組みを特集として紹介しております。

玉村様からは、これらの取り組みについて、「社会課題の解決へと前進するきっかけとなり全国各地で社会的インパクトを与えるもの」との評価をいただき、大変光栄に思います。

今後につきましては、ヤマトグループのCSRの取り組みについて明確な方向性や経年データを用いた進捗を示すことによって、ステークホルダーの皆さまにとってより分かりやすく、より身近なレポートになるよう工夫して参ります。

これまでヤマトグループが成長しCSRの取り組みにも一定の評価をいただいてこれたのは、第一線のセールスドライバーをはじめ国内外の社員一人ひとりの努力によるものです。

これからも、働く社員がヤマトグループに誇りを持ち続け、地域のお客様のために何ができるかを各々が考え実践する風土・理念を大切にし、グループ一丸となって地域社会に貢献して参ります。

ヤマトホールディングス株式会社 上席執行役員  大谷 友樹

ヤマトホールディングス株式会社
上席執行役員
法務・CSR戦略担当

大谷 友樹

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